扉を開けると、外はオレンジ色に染まっていた。シイは花壇の横にしゃがみこんで、そこに咲いている花を撫でていた。
「行こうか」
「うん」
シイは笑顔を向けると、すっと立ち上がった。
「ちゃんとお水あげているのね」
「ああ」
「でもちょっとあげすぎかも」
「毎日やるものじゃないのか?」
シイは横目でこちらを見た。
「そうね……、二日か、三日に一回でも大丈夫だと思う」
「そうか、知らなかった」
「大丈夫よ。まだ元気そうだったし」
冷たい風が頬を撫でた。柔らかい匂いが鼻をかすめる。
「あのお花……、ユウが植えているの?」
「いや、この時期になったら勝手に咲くんだ」
シイの返事はなかった。彼女は二、三歩前に出て立ち止まってこちらを向いた。両脇にはオレンジ色の光を漏らす木々がゆらゆら揺れている。葉っぱが擦れる音がいつもより鮮明に聞こえた。
「どうした?」
「あのね……」
シイの大きな瞳がまっすぐ向けられている。やがて、それはしぼむように柔らかくなった。
「今日の夕食は?」
風が止んだ。目の前にはいつもの彼女がいた。シイは小さな紙を受け取ると、その紙をまじまじと見つめた。彼女はオレンジの淡い光に照らされている。彼女はふと顔を上げると、静かに笑って見せた。
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