ユウの家で

 白い光が暗い部屋を照らしている。机の向こうには一体の白い人形。下を向いている顔は彼女の前髪に隠されている。水が流れる音、カチャ、カチャ、と何かがぶつかる音が耳を障る。人形の顔の先には整った装丁の本が広げられ、彼女の白い手がその両脇に置かれている。心地の悪い空気、心地の悪い空間だった。

 窓を開けた。カタカタという音とともに、冷たい空気と太陽の暖かさが混ざった風が入ってくる。草木の香りを乗せ、椅子に腰かけている彼女の茶色い髪を揺らす。

 彼女の正面に戻った。垂れた髪の間からわずかに見える色白の顔は、手元の本に注がれている。時折本がめくれる音が聴こえる。風に揺れる木々を眺めていると、窓の近くに赤い小鳥が止まった。

 パタン。

 窓のそばには鳥はおらず、代わりに赤みがかった光が差し込んでいた。

 カウンターの向こうでは、一人の女がカップの側面を撫でている。さっきまで読んでいたはずの本は閉じられ、彼女の横に置かれている。微かに甘く、生ぬるい空気が辺りをめぐる。彼女と視線が合う。彼女は空のカップを差し出した。

 ぬめりを帯びた香りが一帯に広がる。彼女は目の前に置かれた白い器をゆっくりとした所作で持ち上げ、長い息を吹きかけて口を付けた。そしてすぐに離して机に置いた。そのまましばらく淵を撫で、再び口に付ける。これを繰り返す。

中身が再び空になった頃、シイは息を吐き、こちらに目を向けた。

「ねえユウ、散歩に行きましょう」

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