広場にはほとんど人がいなかった。あたりは既に暗くなっている。シイは俺の持つ袋の中を覗いた。
「これで全部よね」
「そうだな」
シイはうなずいた。彼女は買い物中ずっと何か考え込むような顔をしていた。
「さっきの音」
「うん」
「何だったんだろうな」
「うん」
彼女は別のどこかにいるようだった。
「ユウはあの音聞いたことないのよね」
「ないな」
「私も。でも前に聞いたことがある人もいるのよね」
肉屋の店主が言っていたことだった。シイは考えるように袋の中に目を落としていた。
「そういえば、あの音の前に小さい音が鳴らなかったか?」
シイは顔を上げた。
「私は聞こえなかったけど……、それどこから鳴ったのか分かる?」
「多分あっち」
シイは指さした方角を見ると、また考えるそぶりを見せた。
「……」
シイは悩ましい顔をしたまま家とは逆のほうに歩き出した後、思い出したように振り返った。
「ねえユウ。ちょっと寄り道してもいい?」
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